代表近詠
吊されて
加藤峰子
吊されて籠の鈴虫月に鳴く
蜻蛉の自在に飛ぶを恋ふ埴輪
秋雷のシェルターとなる駅舎かな
置き去りの黒き水筒鬼やんま
キーパーの児の目の闘志つくつくし
叔母見舞ふ撫でて話して涼新た
朝涼の体操空と地をノック
祈る手を真似る幼よ八月来
職人来ベストに唸る扇風機
蓮の葉に隠るる名札覗き撮る
名誉代表近詠
ガスレンジ
橋道子
秋口の真夜の白雲ふくれきる
揺れゆれてまだ秋風になりきれず
ざらざらと潮干の川の残暑光
足指のグーチョキパーや猫じやらし
九月はじまるガスレンジ新調し
高曇る九月の街の始動音
あと何千皿を洗はむ蚯蚓鳴く
当月集より
寒麦集より
羽音抄