代表近詠
忘れ水
加藤峰子
木漏れ日をあつめて点る葉鶏頭
すりこぎの緩急の渦とろろ汁
置手紙のやう干されある唐辛子
昼の虫踏み分けて知る忘れ水
蔦の家のふくらんでくるハーモニカ
新涼の風を手足に嬰眠る
小気味よく剝けひと塩の衣被
ひび割るる魚板の窪みつくつくし
チャーハンを返す白露の中華鍋
秋風鈴ちから残せる舌しまふ
名誉代表近詠
杖
橋道子
蓮の実の飛んで買ひけり紅き杖
ぶり返す秋暑や靴の試し履き
風爽か武将の知恵
水分
に
押せばふんと泡十月の手を洗ふ
白和に秋風すこし混ぜ込んで
もう増えぬ家族に秋の雷しきり
打ちよせて秋を重ぬる荒磯波
当月集より
寒麦集より
羽音抄