鴫

バックナンバー(鴫誌より)
鴫誌より(最新号)へ
バックナンバー(一覧)へ

令和3年2月号より
代表近詠
冬菊
橋道子
悼 井上信子様
大輪の冬菊にかの笑みよぎる
また来ますと別れしままや枯木立
静寂とふ音あり秋の野の真昼
星月夜いつぽん残る心張棒
夜に乗じ木犀の香を嗅ぎまはる
めんだうな男の矜持いぼむしり
ひややかに創を映して夜の鏡
あれ毀れこれ毀しして冬支度
山茶花散る横死の守宮はうむれば
冬夕焼マチスの赤と競ふかに
当月集より

小春日の梢はなさぬ無心の眼
山ア靖子
末枯れの川原小石の温みかな
荒井和昭
天気晴朗十一月のファンファーレ
田村園子
凩一号バラードを口遊む
田令子
落城のごとき枯葦風に鳴る
加藤峰子
後が無い十一月をうかうかと
相良牧人
踏みにけり桜落葉と小さき虫
荒木 甫
炊きたてのこまちに抱かる寒卵
石田きよし
どんぐりの昨夜の湿りを手に包み
成田美代
月光のいづこの屋根も濡らしをり
山口ひろよ
昨日とは違ふ香りや金木犀
中山皓雪
丸まつて山気に濡るる朴落葉
箕輪カオル
ひとりてふ良き夜弓張月見上ぐ
平野みち代
吊揚げし鉄骨振らる神無月
甕 秀麿
睦言か寝言かくくと浮寝鳥
宇都宮敦子
欠航の冬めく波止の波頭
山本無蓋
秋ともし聴くたび涙滲む歌
坂場章子
秋蝶の縺れて行方定まらず
和田紀夫
郁子垣や白い小犬の貰はれ来
鎌田光恵
小春日や墓裏の朱は私の名
田原陽子
朝しづむ月の写メール十一月
数長藤代
隠り沼の水鳥は尻ばかり見せ
原田達夫
病棟の個室に聖書虫の秋
笠井敦子
弁天の口の綻ぶ秋日和
田部井幸枝

寒麦集より

薬喰天狗の由来聴いてをり
木澤惠司
石蕗咲くや銚電丸ごとセピア色
奥井あき
冬紅葉村史に残る噴火絵図
五十嵐紀子
野鳥図鑑十一月の水辺かな
松林依子
おでん酒罪無き噓と知りながら
藤沢秀永
着ぶくれて介護心得立読みす
山内洋光
沢庵の音も味なる茶漬飯
中島芳郎
文化の日床屋に行つてそれなりに
濱上こういち
軋みたる秋湖の風車揚水機
来海雅子
生き甲斐を問はれ戸惑ふ文化の日
中下澄江

羽音抄

神鶏の皺む瞼や初しぐれ
奥井あき
睨み増す十一月の仁王像
坂場章子
触診の椅子のくるつと花八手
西村とうじ
草もみぢ夜は濡れながら染まりゆく
加藤峰子
山茶花や人が最後に生きる家
足立良雄
おまじなひめきて鯛焼尻尾から
成田美代
眼を閉ぢて波の音聞く憂国忌
佐藤晶子
銀杏落葉も少し蝶でゐたかつた
宇都宮敦子
二四六は残念な数七五三
甕 秀麿
マスクの紐こんがらがりて生返事
山内洋光
啄まれ椀の形に残る柿
島田喜郎
ハロウィンの魔女と乗り合ふ総武線
平野みち代
てるてるばうずめく収穫の小蕪かな
山本久江
体内に磁石持ちゐる渡り鳥
塙 貞子
冬の虹何かが遠くなる予感
三木千代
腑に落ちぬ顔の自画像柿一つ
濱上こういち
葱さげて三人内緒話かな
立花光夫
今年酒夫の墓前に泪割
柴田歌子
不人気のすつぱき林檎郷を恋ふ
小林喜美枝
小鳥来る水面に映る木の枝に
近澤 宏


鴫誌より(最新号)へ

バックナンバー(一覧)へ

▲このページの先頭へ
旧字体等で表記できない文字は書き換えています
Copyright(c)2011, 鴫俳句会.All rights reserved