鴫

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平成31年4月号より
代表近詠
寒果つ
橋道子
一瑕なき寒青空を怖れけり
届きたる本をそのまま読初に
賀状読む添書のみをもう一度
草石蚕や誰彼の名を呼び違へ
クーポンを臆せず使ふ耳袋
寒旱ロシア紅茶をなみなみと
流感に乗取られたる身の浮游
常盤木に日の縺れ入る寒の果
すぐ消えしことを褒められ春の雪
我が見えぬ己が背や春一番
当月集より

形見なる硯の海へ初明り
山ア靖子
水仙の囲む水辺のほこらかな
荒井和昭
煮え滾る手前を保つ除夜の鍋
田村園子
呼吸するやうに落葉の吹溜り
田令子
大寒のS字に続く尾灯かな
加藤峰子
どうあれど日はまた上る大旦
相良牧人
老人は熟柿啜れとすすめらる
荒木 甫
隣国の対日策や鐘冴ゆる
石田きよし
恩寵や冬芽の零す日のかけら
成田美代
大根とその葉大事に包み分く
山口ひろよ
初夢を予約す海のホテルかな
中山皓雪
薄明の影ひく小舟初景色
箕輪カオル
土の香の冬菜を洗ふ指の腹
平野みち代
凩のひと夜殺ぎたる三日月
甕 秀麿
冬青草錆しレールが地に馴染み
宇都宮敦子
竹馬やいつも何かに挑戦し
山本無蓋
冬の草鳥翔つ刻を待つレンズ
坂場章子
初夢は誰かと組みしワルツかな
田原陽子
拝復のはがきのぬくみ読初めに
数長藤代
冬の駅髪を手で梳く女立つ
原田達夫
寒鯉の密談のごと寄り合はす
笠井敦子
年賀状の自筆「いつも見てますよ」
田部井幸枝
朝刊の一面に日矢年の花
齋藤厚子

寒麦集より

緑側に解きし知恵の輪日向ぼこ
足立良雄
桃太郎欺く生れしかと初日の出
村 卯
濁り江に汚るを知らず都鳥
藤沢秀永
年酒汲むとうに一人の二人かな
遠山みち子
ポタージュの深き甘さや寒の明
江波戸ねね
酒断つと舌先三寸年酒酌む
中島芳郎
逃げられぬ誕生日なりちやんちやんこ
宮ア根
金色の枯野をぬける小川かな
鎌田光恵
初みくじ折目整へ結びけり
齊藤哲子
羽根たたみしばし遠目の大白鳥
大島節子

羽音抄

一望の冬田や母に早めの灯
加藤峰子
白菜をきゆくと鳴かせて樽漬けに
鎌田光恵
生来の軟弱御免寒の水
山口ひろよ
綿虫やただよふいのち軽からず
中島芳郎
全身のちからを探す初鏡
齋藤厚子
湯たんぽの一夜なじみて水抜かる
荒木 甫
煮凝や耳底に淡き波の音
成田美代
旅に出るやうに枯葉の喜々として
濱上こういち
冬ごもり悪書一冊加へけり
足立良雄
吾の敵は我天邪鬼めく初鏡
甕 秀麿
中天を穿ちて鶴の啼き交はす
松林依子
雪女郎鼻緒を切れしじよじよさげて
平野みち代
添書きの癖字に安堵年賀状
三木千代
躾糸抜く音を泣かせ雪女
来海雅子
喜寿越えし五姉妹の笑む初写真
今井忠夫
鳥動くたびに落葉の鳴りにけり
岩本紀子
寒卵胸ふるはせて産みてをり
みたにきみ
宝船船頭の乗る隙間なく
佐藤晶子
ゆくとしの病に好かれをりにけり
別人蓑虫
読初めは地球の螺子を巻く速度
川瀬 康


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