Shigi-haikukai
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平成29年5月号より
選者近詠
脳裡
橋道子
この星に戦なきかに冬青空
満を持すとは枯れ極む大欅
着ぶくれて新装駅の燦に酔ふ
遠吠えは野に返るこゑ寒の犬
山の日を溜め切干の幅広し
焼き付くる脳裡いちまい花菜畑
網なしてすべる岩肌春の水
うるうると春夕焼けの濡らす橋
小さくて気のきいた店木の芽和
うつむいて背は口ほどに春愁
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当月集より
途中下車して梅林に来たりけり
中江月鈴子
石棺に音なく日脚伸びゐたり
山ア靖子
墓場から来たる埃や春北風
荒井和昭
吉祥の亀裂のはしる寒卵
田村園子
始発駅見下ろす夜景冬尽きぬ
田令子
初蝶来一行詩などたづさへて
加藤峰子
如月の画布一枚に人寄り来
相良牧人
うすらひや底ひの水のうごめくも
荒木 甫
白梅のひかりの中を迷ひけり
石田きよし
夕星や木の芽ほどくる音のして
成田美代
冬林檎ゆがみも疵もいとほしき
山口ひろよ
琅玕の中の老幹風光る
中山皓雪
初蝶の日差しに染まる野畑かな
箕輪カオル
身の枷のほろほろ解け春の水
平野みち代
猪鍋や主のこぼす高齢化
甕 秀麿
いくつもの房美しき雛道具
宇都宮敦子
如月の朝市仕切る包み髪
山本無蓋
新聞紙きりりと括る春隣
田原陽子
光りつつ川面の荒ぶ春隣
数長藤代
寒雀群れては梢埋めにけり
原田達夫
蕗のたう人住まぬ屋の日溜まりに
笠井敦子
旅客機のエコノミー席春の海
田部井幸枝
春耕や音なきはるかなるリズム
齋藤厚子
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寒麦集より
上り来て残る数段梅白し
坂場章子
朧夜の昨日につづき死ぬ役者
足立良雄
朧月度忘れといふ良き言葉
宮ア根
口移し救急訓練雨水かな
鎌田光恵
師の一語印籠めくや春の雷
青木ちづる
凍星のオンザロックの夢にゑひ
木澤惠司
蛍烏賊目ん玉仕分く舌の先
村 卯
自づから雫となりて寒造り
来海雅子
関取のぐはつと摑む年の豆
齊藤哲子
水温むそろそろ会ひたき人のをり
中下澄江
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羽音抄
重ならず背かず風の黄水仙
坂場章子
春園の真ん中にある睡たい樹
江澤弘子
その中に黙示のやうな冬の星
相良牧人
芹の水ゆらし次々走者かな
鎌田光恵
鎌鼬炉心溶融なる訳語
荒木 甫
雪形や山羊の鳴く声届く駅
木澤惠司
なやらひの隠れ煙草の鬼のゐて
平野みち代
かげろひに消えてゆきたるひとの影
中島芳郎
我輩は仔猫なりけり大あくび
齋藤厚子
畑打ちて勝者のやうに帰りけり
石田きよし
ゆつくりの夜の秒針沈丁花
宮ア根
春疾風両手で寄せる目鼻かな
齊藤哲子
春浅し嬰児の靴脱げやすし
山本無蓋
どの位顔くらいと言ふ春満月
石山博志
胸に手を重ねて畳む春セーター
来海雅子
丁寧に開け折紙の種袋
中下澄江
猫は恋俺はひとりでストレッチ
橋信一
電線を跨いで登る雪降ろし
伍島 繁
春煖炉長屋住まひを誇る友
澤田美佐子
岩砕く鰐の歯となる冬怒濤
西嶋久美子
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