鴫

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平成26年9月号より
代表近詠
緑蔭
井上信子
―白潮先生七回忌―
八月をひとしく老いて集りぬ
集りてすぐ緑蔭につつまるる
目礼と目礼朝曇り濃かりけり
つくづくと声太かりし大暑の忌
遠き日の流れてをりぬ箱眼鏡
門灯に足長蜘蛛のわたり来て
蜘蛛が子を連れてくる夜と思ひけり
夏深し身ほとり寂ぶるまま寂ぶる
当月集より

生と死の隙間往き来す梅雨の闇
中江月鈴子
青芝に坐してこの世の風ざんまい
山ア靖子
梅雨雲をそだてる海のあばれやう
橋道子
手押車に園児満載梅雨晴れ間
荒井和昭
夏帽の鍔広ければすべて了
風間史子
新緑の色にも揺らぎにも千差
田村園子
梅雨明けや鎖骨のきしむ卓に坐し
小林正史
明易しコンビナートの点滅に
田令子
夏蝶の舞ふはメロディー湧くごとし
加藤峰子
船虫の船を見捨ててをりしかな
相良牧人
空港の里山鈍の梅雨に入る
荒木 甫
開け閉ての大き訪なひ梅雨晴間
石田きよし
薫風の畳みし地図をまた開き
成田美代
前触れのやうな螢に浮き立ちぬ
山口ひろよ
桑の実をふふみて笑まふ師の遠し
田原陽子
青芝の人らきびきび向う岸
数長藤代
海ほたる守る一羽の梅雨鴉
中山皓雪
傘さして梅雨の祭りや禰宜と香具師
折橋綾子
葦雀考ふること人に強ふ
椿 和枝
雷の棲む山と言はるる怒り肩
佐藤山人
野辺送り金剛山の夏の雲
原田達夫
もうすでに支柱欲しがる瓜の蔓
笠井敦子
病室にひばの香水淡く吹く
山本無蓋
湾の奥へ火急の用事荒れ卯浪
田部井幸枝
波すべて波間に消ゆる大南風
齋藤厚子

寒麦集より

眠る児のげんこつ握りをる薄暑
坂場章子
蔵の町そこそこに見て虹の橋
箕輪カオル
玉葱を描く紫を少しまぜ
遠山みち子
百合の花ダイナミックな前奏曲
久米なるを
童顔になりし麦稈帽子かな
中島芳郎
採血にまくる長袖走り梅雨
村上すみ子
時の日の水琴窟を飽かず聞く
甕 秀麿
宮に入り解くや神輿の飾り綱
和田紀夫
酒家どちの珍味好みや五月海蛸
安井和恵
ドイツ旗のたなびく村の青嵐
澤田美佐子

羽音抄

青葉して灯は蝋燭の金色堂
荒木 甫
夕凪や二枚の皿の咀嚼音
中山皓雪
中天に日のある茅花流しかな
甕 秀麿
ゆつくりと緑まぜゆく観覧車
平野みち代
山の日を大きくのせて朴の花
箕輪カオル
紙で折るトリケラトプス梅雨湿り
五十嵐紀子
出奔の出来ぬ金魚を味方にし
齋藤厚子
鋼鉄の昏さなりけり五月波
山本久江
噴水ヘパンツ一つに飛びこむ児
来海雅子
お辞儀するメートヒェンめく薔薇の園
田中涼平
母さんのひとり言聞く金魚かな
柴田歌子
えご落下出来て久しき潦
森田尚宏
父の日や子等そろひたり病室に
遠山みち子
青空にもつとも遠い蟻地獄
笠井敦子
竜宮の戻りか鱏のほろ酔ひか
奥井あき
父の日を知らずに死んだおやぢ殿
久米なるを
昼顔の雛が餌を待つ口のごと
西村将昭
萱草咲く佐渡島より投函す
齊藤哲子
蚊遣り火を這はせて忙し町工場
山内洋光
飛ばされて踏まれてうれし夏帽子
澤田美佐子


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