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平成25年11月号より
代表近詠
秋深み
井上信子
雀ただ無□な夕べ秋深み
蜩の一斉に止む一斉に鳴く
ざくろ落つ赤でなく黒でなく
りんご煮るふと幾人も看取りきし
県境や不意に蘆萩といふ言葉
秋の川ただ面映りて行くばかり
小鳥来る瞬きてまばたきて来る
西空にふるさとを置く虫しぐれ
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当月集より
つぎつぎとおどり出てくるからす瓜
中江月鈴子
養生訓ささやくやうな豆団扇
山ア靖子
みんみんの滾る急行通過駅
橋道子
本籍を安房に移せり秋の雲
中村恭子
かはほりの暗がり仲間殖えにけり
荒井和昭
夕涼の水辺は語り合ひ易し
風間史子
ほろ苦きかな黴兆すリルケの書
田村園子
汗のシャツ脱いではがせる蟠り
小林正史
海近き駅に竜胆届きけり
田令子
引潮に足裏の走る残暑かな
加藤峰子
ふるさとの球音届く雲の峰
相良牧人
老鴬や健診結果まづは良し
荒木 甫
伸びのびと三日見ぬ間の胡瓜かな
石田きよし
サングラス入れてをさまる旅鞄
成田美代
終戦日強く塩打つ青魚
田原陽子
草風にこころあづけし遠花火
数長藤代
蝉の殼痛みそれぞれ隠し持つ
中山皓雪
車椅子の廊下とんびや夜の秋
折橋綾子
糸瓜水採りそこねたる夫なり
椿 和枝
鹿野颪さらさらと早稲黄ばみけり
佐藤山人
彷徨へる三頭身の金魚かな
原田達夫
ひぐらしの声はこころに棲み易し
笠井敦子
水飯といふ究極の手抜き飯
山本無蓋
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寒麦集より
同じ景眺めて飽かず簾越し
森田尚宏
袈裟がけにシーツ取り込む青嵐
三木千代
花合歓の種採る莢を日に透かし
来海雅子
愛着の甚平の紐細きかな
遠山みち子
読み返す予後の便りや夕端居
藤沢秀永
秋団扇消息のみのメールかな
和田紀夫
夾竹桃給油所付設珈琲店
西村将昭
自縛解く岬の風や今朝の秋
江澤弘子
行きつけのいつものラムネ何でも屋
齋藤厚子
秋来る書店の窓の招き猫
村上禮三
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羽音抄
八月や歩いても黙つてゐても
齋藤厚子
炎帝の哄笑いよよダム割れて
奥井あき
秋日傘させばをとこもひらがなに
濱上こういち
ははそばのははの昔を桃啜る
荒木 甫
新涼や日記の脇のヨーグルト
山本無蓋
捨てられしことある猫となき蜥蜴
石田きよし
沢蟹の遠出に月の畑かな
宇都宮敦子
朝顔の手を継ぎ足してきのふけふ
森田尚宏
炎帝は自勤扉の向ふから
柴田歌子
文鎮を苛立たせをり扇風機
田部井幸枝
蟻の列我も伝言されてをり
田令子
呪文めき片山里に夏の霧
山□ひろよ
穂の出でて鳥の休らふ青芒
村 卯
太陽に赤い髭かく夏休み
中山皓雪
山容を脳裡へ刻む送り盆
藤沢秀永
炎天にかざしたる手の蔭をゆく
山内洋光
落し文手抜かりのなき畳みやう
松林依子
青田のぞむ部屋自慢とも寂しとも
佐々木秀子
入道雲引き込んでをりビルの窓
三木千代
一枚のハンカチに坐す老夫婦
田中裕一
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