鴫

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平成23年11月号より
代表近詠
閃閃と
井上信子
どことなく敬老の日でありにけり
挨拶もなき迎へくる月の夜
めつむりて探す今年の愛の羽根
秋じめりとは胸もとか喉元か
うつそりと凶事続きや露月夜
黒猫の太りて通る夜の長し
がれきと云ひ瓦礫と書きぬ鳥渡る
若死の父へまつすぐレモン切る
母よ風呂敷包みに秋日差
水澄むや甲州武州閃閃と
当月集より

一本の鶏頭早くも炎なす
中江月鈴子
朝焼の瞬時は母の裾もやう
山ア靖子
風葬の落蝉一つまたひとつ
橋道子
ひぐらしのこゑの波うつ手暗がり
中村恭子
草蔭にあめんぼ集ふ骸かな
荒井和昭
食細き人の智恵借る盆用意
風間史子
塩飴を舌に転がすハンモック
田村園子
夏風邪や母のにほひの漢方薬
小林正史
撫で肩の小瓶に満たしおく梅酒
田令子
その人は父とゐるごと祭笛
加藤峰子
冷し酒ふたりの声の重なりぬ
倉持梨恵
托鉢の僧の熔けゆく日の盛り
前川明子
終戦日父の戦の始まりぬ
相良牧人
朝顔や言葉慎むこと多し
田原陽子
夏の雲段々畑減つてをり
数長藤代
水疲れ金魚掬ひの灯も疲れ
中山皓雪
ひとり修す夫の遠忌や蝉時雨
折橋綾子
炎昼は歩けるときに歩くため
木下もと子
浴衣の子夜の校庭にまぎれけり
椿 和枝
冷奴つついて潰し効かぬ齢
佐藤山人
焼却炉嵩張つてをり晩夏かな
原田達夫
窓際にバリトンの鳩明易し
笠井敦子
鉢巻の漢ねぶたを引き回す
山本無蓋
泰然と涼しく笑まふ聞き上手
石田きよし
かなかなの一山を背に父祖の墓
荒木 甫

寒麦集より

ひぐらしの声ふりかぶる鞍馬寺
江澤弘子
薪を積む秋に染みゆく丸太小屋
遠山みち子
孟蘭盆会ははのげんこは撫づるごと
来海雅子
肩書は未亡人なり秋の蝉
宮ア根
新幹線に乗りこんで来し捕虫網
甕 秀麿
お土産は那須の秋風なりしかな
濱上こういち
大夕焼湖にとろけてしまひけり
大場ましら
掬ひては零しつ漱ぐ山清水
成田美代
山門に触れて潜れり萩の風
猪爪皆子
コスモスや筑波みやげの宇宙食
池田高清

羽音抄

十六夜の櫂の音届く乳児院
海老根武夫
補聴器の土砂降りとなる秋の蝉
原田達夫
かぜそば
 
蓮の葉のふと力抜く風戯へ
宇都宮敦子
夏霧より絶巓生るか生れにけり
成田美代
ナイターの売手通路を走るはしる
山口ひろよ
平凡に倦みしは昔鰡飛べり
平野みち代
裾すこし濡らして帰る月見草
甕 秀麿
うねりのみ残し白萩地を染めり
青木ちづる
モナリザの笑みにぶつかる金亀手
山本無蓋
亀の首同じ角度に日の盛り
坂場章子
他人の老い私の老いや踊りの輪
中山皓雪
鬼やんま制空権をもつてをり
山口輝雄
盆休み声家中にちらかれり
大場ましら
平服と言へど黒なり魂祭
宮ア根
鬼来迎子供亡者におひねり飛ぶ
岩本紀子
握る手の九十五年の日焼かな
数長藤代
落蝉の時に声出す日暮れかな
高橋みつ
ぼふぼふと鴿くぐもる晩夏かな
中島芳郎
格安の大玉西瓜持て余し
橋信一
新涼を掬ひてリフト昇りゆく
飯塚文子


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