鴫

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平成23年10月号より
代表近詠
虫の夜の
井上信子
伽羅蕗を煮る十年は一と昔
厄介なわが八月を送りたる
夜の蝉子の倒立の壁の傷
なつかしき引き算夏やすみ終る
さみしくば蓑虫の句を諳んじよ
いつよりか秋の金魚の泳ぎせる
秋風や子規のつむりの思はるる
街道のかの伽羅蕗の辛き店
大き虫翔ぶ甲州街道の夜明け
虫の夜の追伸長しつまらなし
当月集より

遠目にも風が風呼ぶ青芒
中江月鈴子
花石榴濡れて吹かれて遠忌くる
山ア靖子
しばらくは下闇となる路線バス
橋道子
さいはてや埋没林はしたたりて
中村恭子
川狩の子ら堂々の泥まみれ
荒井和昭
子守唄ほどの揺れやう鳰浮巣
風間史子
振り向けば手の切れさうな梅雨夕焼
田村園子
ほがらかな風の集まる花菖蒲
小林正史
渓流の淵七月のみどりいろ
田令子
雲の峰両手両足二分音符
加藤峰子
海原のやうな真夜中白紫陽花
倉持梨恵
初蝉の一瞬明日は小さき旅
前川明子
通勤の無き身にサマータイムかな
相良牧人
川風の涼しき店に筆選ぶ
田原陽子
猛暑言ひまた入院と低くかな
数長藤代
秩父巡礼夏うぐひすに咫尺せり
中山皓雪
形代に息かけし儘人院す
折橋綾子
わが死後の押入れ崩れ汗滂沱
木下もと子
西国の妣の訛や鹿子百合
椿 和枝
宮薙ぎの面々揃ひ初西瓜
佐藤山人
さみだれや家持の海暮るるなり
原田達夫
影作るものに走りて蜥蜴の尾
笠井敦子
馬小屋を吹き抜く風やポニーの目
山本無蓋
ふるさとの山故郷の湖涼し
石田きよし
電子辞書夏痩せのごと電池切れ
荒木 甫

寒麦集より

即決の朝顔市の紺なりし
宮ア根
記紀神話の海平らかに夏霞
村上すみ子
裴翠を撃つかのごとき連写音
甕 秀麿
地方紙を広ぐロビーや夏うぐひす
平野みち代
ブリッジに凭れ白夜の人となる
村 卯
日盛りの羊あふるる交差点
成田美代
梅雨深みたり糠床の塩を足す
足立良雄
虫喰いのレースのやうなキャベツ剥く
佐々木秀子
アトリエの広き北窓夏木立
山口ひろよ
梔子の花盗人となりゐたる
来海雅子

羽音抄

先生も研究生も水を打つ
田令子
行雲の音なき縺れ大夏野
成田美代
雹一顆献ずるごとく硯海へ
荒木 甫
雲ばかり見てゐる甥の帰省かな
椿 和枝
泳ぎ来て耳灼熱の石に当つ
平野みち代
七月の机上のインク満たしけり
遠山みち子
夕焼に捕まるやうに旅に出る
石田きよし
猛暑日の己れの影に力あり
久米なるを
あやまる気更々なくて心太
箕輪カオル
人かつて神でありしよ雲の峰
青山正生
空蝉のしがみ付きしは痛みとも
笠井敦子
夕闇の影ぬらし来る蟇
齋藤厚子
朝顔の身動ぐ音に明けにけり
田部井幸枝
わくら葉の一枚底に外湯かな
山本久江
純白のグラジオラスのほむらかな
木下もと子
病人に小さく開く扇かな
青木ちづる
犬の尾のなすところなき猛暑かな
濱上こういち
語り部は視線とほくに沖縄忌
甕 秀麿
武者落とし覗く一気に青葉の陣
江澤弘子
講座は今芭蕉と其角日の盛り
天野正子


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