鴫

バックナンバー(鴫誌より)
鴫誌より(最新号)へ
バックナンバー(一覧)へ

平成23年2月号より
代表近詠
風少し
井上信子
風少し日差の少し神無月
崖のある町に住みをり冬の蝶
利き腕のまだ利く冬を迎へたる
椅子に夫をりて冬日を浴びてをり
焼栗をむきつつ遠き日なりけり
花八ツ手佛間一と間を隠したる
山椒の実ひたすら潤むことをせり
むつかしき一返信や冬苺
足すもののなき冬仕度いたしけり
はつふゆの音かと思ふ街路灯
冬暖の湯島へ出るに坂がかる
寝台の固きを愛す漱石忌
当月集より

枯菊の鉢に名札をつけて刈る
中江月鈴子
ゆく秋の水音に耳洗ふかな
山ア靖子
木々の漉す十一月の光かな
橋道子
クルーザー追ひかけて飛ぶ白鴎
中村恭子
さいかちの莢のくろぐろ霜の朝
荒井和昭
胸高にしぐれじめりの紙袋
風間史子
倒れ伏すものより種を採りにけり
田村園子
初鴨の少し愛する間合なり
小林正史
ゆつくりと十一月の雨の中
田令子
箱の柿隙間を埋める紙ぢから
加藤峰子
押し寄せる風のひとすぢ夕花野
倉持梨恵
銀杏黄葉高みより見る爆心地
前川明子
熱燗の備前徳利が喉鳴らす
相良牧人
冬仕度まづ佛壇に声かけて
田原陽子
集合す雨ほどほどの台風裡
数長藤代
水鳥の足もも色に飛ぶ城下
中山皓雪
濡れそぼつてるてる坊主秋深む
折橋綾子
明眸のマスクの顔を押しはかる
木下もと子
冬禽のこゑの満つ間の北の窓
椿 和枝
掘上げし自然薯抜き身にも似たる
佐藤山人
なだらかにうねり広ごる真葛原
原田達夫
なけなしのいのちをひきてゆきばんば
笠井敦子
あをによし奈良の県庁照紅葉
山本無蓋
黄落の手鏡ほどの池めぐる
石田きよし
厠まづ訪ふてより紅葉狩
荒木 甫

寒麦集より

熊よけの鈴の遠鳴り降る落葉
成田美代
渓谷の中洲に揺るる草紅葉
安井和恵
爆心の如くなりけり破れ蓮
大場ましら
江戸川の蛇行大らか小春かな
森 聖子
北斎の生き続く町栗おこは
藤沢秀永
柚子梯子きのふのまゝに置かれをり
遠山みち子
花貫川帽子に飾る草の花
山口ひろよ
冬の蝶迷はず佐渡の赤石に
宮ア根
ビル見上ぐ平屋の庭の花八手
甕 秀麿
遷都千三百年のつづれさせ
宇都宮敦子

羽音抄

立冬の陽射の中のパン工房
田令子
髭を剃るしばしの孤独冬の鵙
荒木 甫
雨の来る鰤大根の準備中
齋藤厚子
立冬や伊予青石に水響く
宇都宮敦子
柚子湯よし柚子化粧よし老いもよし
中山皓雪
勝鬨橋がつがつと揺れ冬に入る
原田達夫
見返しと表紙真つ黒火の恋し
山本久江
黄葉の虫食ひ五大湖のかたち
甕 秀麿
冬耕の来し方畝を振り返る
濱上こういち
朝の地震ふとんの中の小宇宙
青山正生
芒野は風の貯蔵庫かもしれぬ
箕輪カオル
バス停の次も橋の名渓紅葉
平野みち代
ボロ市の将の軍服小振りなり
石田きよし
言の葉にいまだ子を欲る連れの冬
木下もと子
大往生にて案山子翁積まれゆく
山口ひろよ
霜月に遅れて廃業届出す
椿 和枝
階下より大声上がる布団干し
水野嘉子
底辺を気楽に暮し冬紅葉
山本無蓋
ひとり居のすなはち梨を白く剥く
奥井あき
いさかひもこれで終はりと障子開け
山本アイ子


鴫誌より(最新号)へ

バックナンバー(一覧)へ

▲このページの先頭へ
旧字体等で表記できない文字は書き換えています
Copyright(c)2011, 鴫俳句会.All rights reserved