代表近詠
月うるむ
加藤峰子
出来秋の享保とある水神碑
露草を抜かず養ふ垣の瑠璃
ちちろ鳴く昼を灯して金物屋
闇動く二百十日の猫の鈴
蟷螂の複眼脂ぎつてをり
鬼の子の人恋ふ時の揺れ激し
月うるむ夢二葉書のをとこ文字
石投げて澄む水起す二人かな
秋澄むや文字の小さな座右の書
半世紀使ふ表札銀河濃し
名誉代表近詠
能舞台
橋道子
ピクルスを嚙むやひりひり秋旱
荒む世の敬老の日のどら焼きよ
退屈といふ贅沢の木の実独楽
露けしや空缶捨つる音二秒
菊の雨父の遠忌はにぎやかに
かの世との往き来を露の能舞台
紅葉且つ散る鈴振ればことさらに
当月集より
寒麦集より
羽音抄