代表近詠
友癒えよ
加藤峰子
友癒えよこの夕虹を仰ぎ見よ
夏の夜を紡ぐラジオの私小説
生ひ立ちの波乱を聴くやソーダ水
剪りぎはに水を零して濃紫陽花
野の椅子に水筒ふたつ夕焼雲
どやどやと冷房称へバス乗車
ゴールキーパー男子の食らふ鰻飯
夏帽子手ぐしに解くへたり髪
夏深し付箋に夫の癖字かな
老鶯の墓苑に満つる七回忌
名誉代表近詠
罫線
橋道子
炎天の人つこ一人それが我
被爆者記読めり静かな熱帯夜
サルビアや扉の軋む美容室
どしや降りを西へ潜れば夏の果
暑に耐えて草の勢ひに負けにけり
息つめて罫線を引く夜の秋
街空に銀河をさがす癖のまだ
当月集より
寒麦集より
羽音抄