代表近詠
目覚むれば
加藤峰子
要塞めく工場群や虫すだく
鬼やんま零番線のある駅舎
裏返り奮ひ立ちては秋の蟬
湯浴みせばデビューしたての虫の声
塒へと釣瓶落しの羽音かな
金盥に並べ売らるるつくねいも
木の実拾ふ森の窪よりけもの臭
見返り美人画右肩の秋思かな
目覚むればすべてが過去や唐辛子
天の川母に最期の紅をひく
名誉代表近詠
ペア
橋道子
鰯雲ペアのスマホとペアの杖
病棟裏が金木犀の発信地
自販機に声かけらるる星月夜
ゼムクリップのゼムにつまづき夜長し
高々と十三夜月波郷の月
一つ家に住み尽くさむととろろ汁
覗き見のこの世の隅の花野原
当月集より
寒麦集より
羽音抄