鴫

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平成27年12月号より
代表近詠
草の実
井上信子
垣越えて来しより赤き実となりぬ
草の実の留守の家より零れきし
郵便物なしの今日なり林檎煮る
投凾はいつもこのころ月射して
月の夜は都大路に立つごとし
秋深し昔は汽笛流れきし
さやけしや対岸の灯は隅田の灯
選者近詠
いちじく
橋道子
街路樹の一本づつの団栗圏
間違へて戻る間に消ゆ鰯雲
龍淵に潜む吊橋に暮色
色濃かるらむ辺境の秋桜
流水を細め鰯を手開きに
夜長人箪笥の底をかきまはす
いちじくや老父もその母恋ひき
当月集より

何となく十一月も過ぎにけり
中江月鈴子
砥石もておのれの錆も文月尽
山ア靖子
新涼の栞跡つく大字典
荒井和昭
見開きを膝へ伏せおく稲つるび
風間史子
ざわざわと九月ロゴまたエンブレム
田村園子
乳白の空に燕の帰りゆく
田令子
月光や働く靴は夜古ぶ
加藤峰子
鰯雲遙かに宇宙ステーション
相良牧人
嫌な奴の喉の奥へ鷹の爪
荒木 甫
ちちろ鳴く五百羅漢の千々の耳
石田きよし
落葉松黄葉高きには高き風
成田美代
どの径を行くも水音風の盆
山口ひろよ
廃屋の鬼灯うるる吐息かな
中山皓雪
木の実降るアスレチックの森閑か
箕輪カオル
稜線の昨日より濃し赤蜻蛉
田原陽子
夜を通し九月の咳に責めらるる
数長藤代
石白く乾きし二百十日なり
椿 和枝
飼ひたきは色付きの糸吐く蚕
佐藤山人
処暑のけふ親子連れ立ちラーメン屋
原田達夫
国境を渡る真雁も難民も
笠井敦子
穂芒に宿る雨粒日を返す
山本無蓋
矢羽草かくも次ぎつぎ石の隙
田部井幸枝
吾亦紅手の鳴る方へ風の行く
齋藤厚子

寒麦集より

良き傾ぎもて蓮の実飛びにけり
堀岡せつこ
歌姫は三等海曹涼新た
甕 秀麿
秋だねとただそれだけのことを言ふ
奥井あき
台風のまた曲り来る片思ひ
中島芳郎
南瓜煮る女二人の好き嫌ひ
大島節子
親潮の香り購ふ初秋刀魚
藤沢秀永
手櫛して二百十日の風の中
平野みち代
秋茄子にこだはりたがる嫁姑
伍島 繁
梨棚の下の宇宙に遊泳す
村 卯
めはじきや栞り代りの領収書
足立良雄

羽音抄

初紅葉水の分厚くなる辺り
成田美代
新涼や鏡の中の吾を磨く
平野みち代
赤とんぼフォーメイションを怠らず
相良牧人
充電のやうに樹を抱く秋の蝉
宇都宮敦子
天高しマクロミクロの研究棟
荒木 甫
新蕎麦を啜りせはしく別れけり
来海雅子
銀漢のつづきの色の川渡る
齋藤厚子
登高の風少年の肩を抱く
江澤弘子
降る雨も過客のひとり新酒酌む
濱上こういち
瓶並べ秋の水辺の調査班
坂場章子
争ひに妻のひと言ばつたんこ
足立良雄
川風を揉み込んでゐる大根蒔
鎌田光恵
秘めたきは知られたきこと葛の花
松林依子
金木犀易きファーブル児童版
村 卯
白ければ雲の使ひの曼殊沙華
山本久江
長き夜の頼りきつたる電子辞書
齊藤哲子
秋の夜や太く短かき生命線
宮ア根
一葉落つ一瞬止る利根の川
左京信雄
無味の皮味引き立てて衣被
田中涼平
海風に風船かづらのいやいや
関谷ひろ子


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