鴫

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平成24年8月号より
代表近詠
夏兆す
井上信子
春愁の尽きたる夜の濃茶かな
夏兆しをり電柱の町に住み
まだ消さぬあなたの往所夏の雨
茅花野と指されて風の流れたる
人住まずなりたる町の夕立かな
テーブルの四隅明るし豆の飯
父の日の妹ばかり並びをり
金玉糖父の勘氣と似てゐたる
六月のブックカバーの匂ひかな
傘を干す朝顔市のもう来ると
当月集より

炎天を来て潮辛き湯を浴びる
中江月鈴子
はじめての曾孫は男の子卯波立つ
山ア靖子
人の世の声まばらなる花盛り
橋道子
魔除けとふ卯の花垣の咲重り
中村恭子
師の魂も指差しをらむ朴の花
荒井和昭
晩春の書架に一冊分の隙
風間史子
掃かるるを客死の蝶と思ひけり
田村園子
花鯛の切り身を据ゑて自祝とす
小林正史
みちのくのさらに奥なり遅き春
田令子
裏面まで尖る割印夕立雲
加藤峰子
夏めくや水の内外動くもの
前川明子
蝌蚪の国一朝あれば皆動く
相良牧人
夏風邪や万年筆のスペアインク
荒木 甫
攫はれてみたき岬の大南風
石田きよし
一川を跨ぐ百尾の鯉幟
田原陽子
五月来ぬ夫在るやうに靴を置き
数長藤代
爪切つて指先かるくなる五月
中山皓雪
まばゆく晴れ吾に難儀な夏来る
折橋綾子
夜を通し風宙に鳴る五月来ぬ
椿 和枝
虫出しの雷と呟く老農夫
佐藤山人
肩に背に桜蘂降る紀尾井町
原田達夫
身ほとりの水の音より夏来る
笠井敦子
このあたり住みよささうな新樹光
山本無蓋

寒麦集より

水音の暮れゆくところ水芭蕉
成田美代
ファンデーション色に濁れる代田かな
山本久江
鍬の柄に長靴干され夏立ちぬ
足立良雄
懇ろに筍炊くや安息日
青木ちづる
菊根分遣らずの雨となりにけり
大場ましら
朝風や皿とナイフと青林檎
齋藤厚子
かろやかに城門くぐる夏帽子
箕輪カオル
母の日の注射に母のたぢろがず
濱上こういち
鈴蘭の万を束ねて鐘聞かむ
甕 秀麿
聖五月朝日あまねき産着干す
安井和恵

羽音抄

タクト振る寸前無音五月の夜
山内洋光
夏蝶のやうにはしやぎし片思ひ
濱上こういち
たまさかの都心に迷ふ朧かな
相良牧人
小流れに言葉消えゆく座禅草
成田美代
嵌め絵のやう空埋めゆく欅の芽
原田達夫
新緑の森は点描画の巨匠
甕 秀麿
桜蕊降るやベンチの端どうし
坂場章子
流鶯の五丁目までは啼きに来て
荒木 甫
Tシャツもマーガレットも白が好き
山口ひろよ
十薬の意志あるごとくにほひけり
宇都宮敦子
レガッタの櫂上げてなほ一直線
遠山みち子
箱苗の上を如雨露の水まろぶ
椿 和枝
机上片付かず薄暑の調べ物
村上すみ子
ハンカチの角尖らせて拭く涙
平野みち代
俄主夫長さきちんと蕗を切り
藤沢秀永
苺ジャム途中のままに人院す
三木千代
菖蒲の束どさりとジムの大浴場
村 卯
サングラス額に掛けて紅をひく
齊藤哲子
多羅葉に宛なき文や暮の春
奥井あき
指もまたいつしか老いて夏迎ふ
中村明子


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