鴫

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平成24年6月号より
代表近詠
若葉雨
井上信子
吉野より菓子が届きぬ若葉雨
花過ぎのそれも夜雨の二、三日
葛菓子のさいころ形の朧にて
葛切やもう逢へぬ人逢はぬ人
若芝の家夕ぐれどきの門
葉櫻の夜みちは遠出せし思ひ
山吹の白覚めやすし散りやすし
白山吹散るは小指の色かたち
坪庭のわがたんぽぽの夕間暮
病みつつや長生きをせり更衣
当月集より

二週間遅れて新茶届きけり
中江月鈴子
春あけぼの月のかけらの孤舟かな
山ア靖子
海嘯といふを知りたる三月来
橋道子
此処いらが総のまほろば初雲雀
中村恭子
蟇穴を出て無呼吸外来の戸
荒井和昭
青き踏む一人は明日を語りけり
風間史子
くちすすぐ三月の水重かりし
田村園子
院に臥せ開きしままの花図鑑
小林正史
橋詰の寒桜より咲き初むる
田令子
種物を軒に吊るして逝きし人
加藤峰子
印旛沼見ゆる丘なり風光る
前川明子
商ひは名ばかりなりし種物屋
相良牧人
芽柳のはふはふ沼の吐息かな
荒木 甫
奔放なはばたき明日は帰る鴨
石田きよし
入学を祝ぐ信濃路をまつしぐら
田原陽子
四温かな遺影の太き下り眉
数長藤代
渕瀬ある来し方夜雨の雛納
中山皓雪
術後の眼春夕焼の富士捉ふ
折橋綾子
春分の日の風音のつのりけり
椿 和枝
啓蟄の大地を叩く小鳥の尾
佐藤山人
春寒し白き木肌のプラタナス
原田達夫
神官の辞儀は直角梅三分
笠井敦子
瓦礫てふ被災の証下萌ゆる
山本無蓋

寒麦集より

沖霞かつて遠離の隠岐の國
来海雅子
佐保姫のハミング狂つてばかりかな
久米なるを
彼岸過ぐ息子山口我は多摩
小坂経子
雛飾段のうしろに充電す
齋藤厚子
目の慣れて干潟の泥に動くもの
坂場章子
雑踏を見おろす席のシクラメン
佐々木秀子
泥だんごつくりし子等よ鳥雲に
佐藤佐津
母の忌に聞く蛤のひとり言
柴田歌子
麦青む吾は農家の二男坊
高森 弘
海のごときらめくことも春の川
田中涼平
萬斎の音無き立ち居松の芯
田部井幸枝
その中に光るものあり獺祭図
遠山みち子
春雪の轍の跡をペダルこぐ
中島芳郎
のけぞつてのけぞつて聞く揚雲雀
中下澄江
小屋守の腰深く掻く春ストーブ
成田美代
蛇出づる若葉マークの車過ぎ
濱上こういち
干鰈を買ふをなご衆のこゑを買ふ
平野みち代
地球儀を廻しなかなか来ない春
藤兼静子
角灯の点る古書街春時雨
藤沢秀永
春の夜のオムレツの月食べ頃か
堀岡せつこ
春滝の岩肌すべる糸千条
松澤美惠子
貝寄風や現地視察の遠めがね
三木千代
若者のかろき地下足袋春の泥
箕輪カオル
包丁の神も在すや里の春
宮ア根
永き日や訪へば結納飾りあり
村上すみ子
桜咲く鬼怒鳴門の本購ふ
村 卯
その先の白き峰映ゆ吊し雛
甕 秀麿
順当な光陰あらず木の芽寒
森 さち子
バス停に縁ある出合ひ花はこべ
森 聖子
つり人の寝転んでゐし霞かな
森田尚宏
地虫出づ双子の嬰の赤い靴
安井和恵
若者の歩巾でのぼる木の芽坂
山内洋光
二月堂僧の沓音冴返る
山口ひろよ
朝寝して玩具の銃に起さるる
山本久江
似顔絵の添へて売らるる春キャベツ
和田紀夫
蟇穴を出で吉日の味噌造る
青木ちづる
十五時のコンビニに買ふ雛あられ
青山正生
怠ぐせつきて畑のぺんぺん草
足立良雄
夕空のやさしき色や木の芽和
天野正子
古代米固握りして彼岸入
五十嵐紀子
春蘭のうぶ毛光りつ首もたぐ
岩本紀子
皺の手にいきいき生る草の餅
宇都宮敦子
春風やシネマの都見に行かな
江澤弘子
風花や越後生れの母なりしく
大島節子
啓蟄のまるめし反古のほどけ音
大場ましら
のつこりと女岳男岳の山笑ふ
奥井あき

羽音抄

おぼろより出でておぼろの中にをり 
遠山みち子
胸中になほ恃むもの青き踏む
森田尚宏
あはうみの男香れり春祭
宇都宮敦子
わが嘘に笑まひし母の雛調度
石田きよし
薄氷やひとり歩くは耳さとく
成田美代
ふつくりと風の重さに牡丹雪
箕輪カオル
蛇穴を出づまづまづ存す日本国
原田達夫
身に水の滞ほる憂さ亀鳴けり
来海雅子
総髪の男と別れ朧の夜
荒木 甫
花菜風雲の消えたり離れたり
青山正生
焦げ臭き修二会のかけら懐に
山口ひろよ
白魚に国境国家なかりけり
田中涼平
歳時記の師の句や今朝の浅蜊汁
佐々木秀子
沈丁花クローゼットを開け放つ
宮ア根
電卓の音の小暗し花の昼 
海老根武夫
悪口も少し言ひけり春灯
田令子
真二つに湯の街を割る雪解川
藤沢秀永
棒鱈を打ちて怒りのやうなもの
齊藤哲子
雨あがる深呼吸のち春いちご
松林依子
舫ひ舟夕日乗せたるみすヾの忌
大島節子


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