鴫

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平成23年8月号より
代表近詠
夏木立
井上信子
大宰忌をとうに過ぎたる夜ごろかな
誰も来ぬ筈父の日のビヤグラス
さみだれ傘みな働きに行く人よ
ふるさとに用ある七月の駅舎
失せ物を探す陸橋と木下闇
糸繰りの匂ふ筈もなき露地
夏禽の絹糸のこゑ母のこゑ
七月一日包丁を研ぎに出す
一睡の間の重量ぞ大夏木
寄せてくるなり地境の夏木立
当月集より

梅雨明けも間近き潮の匂ひかな
中江月鈴子
束縛のあらねばさびしフリージア
山ア靖子
剛速球投げたる夢や五月来ぬ
橋道子
傘の柄の垂直にゆく菖蒲園
中村恭子
川甚の鰻を予約渡し舟
荒井和昭
喧騒の端に根芹を洗ひけり
風間史子
手の甲の静脈なぞる目借時
田村園子
山葵擦るわさびの花の見ゆる席
小林正史
葉桜の先に小さな発電所
田令子
青蛙沈思のままに跳ぶ構へ
加藤峰子
揺るぎなき母の運転かぎろへり
倉持梨恵
一茎に一花一面チューリップ
前川明子
ピッツアの朧の海を取り分くる
相良牧人
しばらくは茅花流しに髪吹かせ
田原陽子
横断に上りて下る昭和の日
数長藤代
粽解く母の口ぐせ有り難う
中山皓雪
身ほとりの収り悪しく四月尽く
折橋綾子
青嵐体内嵐負けられず
木下もと子
青鴛のほどよき青の羽の色
椿 和枝
わが採つて妻の湯掻ける初蕨
佐藤山人
田を返す馬を運びし渡し跡
原田達夫
若葉風海に突き出たレストラン
笠井敦子
万緑の中のさみどり風の筋
山本無蓋
たんぽぽに屈み地球に問ひかくる
石田きよし
白つつじ転居入居の掲示板
荒木 甫

寒麦集より

長堤やすずめ隠れに待ち逢はす
山本久江
病衣なる筍飯にむせてをり
森 さち子
のみぐすり増やし八十八夜寒
齋藤厚子
遠足の声の吹きだす改札口
大場ましら
枇杷すすり夫には使ふ国訛
山内洋光
老鴬に話の腰を折られけり
濱上こういち
静けさの燕横切る虫籠窓
山口ひろよ
春潮や磯着に透けし海女の肌
和田紀夫
木の橋の鎹光り花は葉に
成田美代
蚕豆の花被災地の高台に
岩本紀子
入れ込みの席詰め合ひてどぜう鍋
青木ちづる
幹ぬれて羽化の途中の緑の蛾
宇都宮敦子

羽音抄

虎杖をぶきぶき手折る父子かな
荒木 甫
まなじりに湖の青さや袋掛
海老根武夫
慰むる夏蝶の翅われに欲し
山口ひろよ
誰何されさうに脱けたる新樹林
佐藤山人
えご散つて夕べを待たずけぶる雨
村上すみ子
木洩れ日を縫ひ取るやうに蟻走る
石田きよし
群衆と孤独をぬけて夏の浜
濱野照美
あたたかや父へ昼餉をとり分くる
坂場章子
初夏やワンオクターブ高き声
濱上こういち
薫風の妻乗りに乗る厨かな
山本無蓋
遠目して歪みし海や薄暑光
成田美代
知恵の輪の外れ五月の一大事
猪爪皆子
五月闇橋に隠さる黄金比
村 卯
整数の無限に増ゆる蟻の列
来海雅子
侮どりて青唐辛子に泣かさるる
森 さち子
風船に悲しき側のありにけり
遠山みち子
街を行く荷台早苗と農夫乗せ
西村将昭
面取りの未だ不得手よ夏かぶら
宮ア根
カーネイション如きに母の待ちわびる
宇田川ふさ子
正面に二峰の見えて植田風
高森 弘


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