鴫

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平成23年5月号より
代表近詠
夜の雨
井上信子
母が来て寄せてゆきたる春落葉
母がゐて春を惜しみぬ夜の雨
白菜を漬けざりし冬送るなり
月遅れ本の親しき春夕べ
三月を啼かぬ鴉に日の差して
東日本震災
櫻三分その夜をしんとしてゐたる
一便を待つ木瓜のただ白かりし
雪まぜの雨となりたる電話なり
冴えかへりつつ佛飯は日に一度
百年の家紫木蓮白木蓮
流速のはげしさ春の闌くるなり
百千鳥赤子の頬の神代より
当月集より

三年振りの筑波梅林川海老買ふ
中江月鈴子
きさらぎや根岸百句を膝の上
山ア靖子
春浅し化粧の途中鏡拭く
橋道子
横跳びに残る寒さの畔を行く
中村恭子
立春の川面まぶしき日でありぬ
荒井和昭
待春の肩にしつくり布鞄
風間史子
冬薔薇通りすがりの者ですが
田村園子
早暁の玄関灯に春の雪
小林正史
ガス燈のまあるく照らす寒桜
田令子
石蹴れば土の中より春の音
加藤峰子
大筆の穂先真つ白淑気満つ
倉持梨恵
二羽の鴨違へず泳ぐ点と線
前川明子
寒晴や癌病棟の硝子張り
相良牧人
豆を撒く男の声を取り戻し
田原陽子
熱湯を夫の好む湯婆に
数長藤代
再入院の夫の荷軽し雪もよひ
中山皓雪
鬼がゐたつてかまはないのに豆撒いて
折橋綾子
春寒の法衣むらさき管主様
木下もと子
鮟鱇を食ひに行かむとのたまへる
椿 和枝
北国のおこぼれのごと風花来
佐藤山人
福は内臍裏の息つかひきる
原田達夫
摺り足にやまひ来てをり冬銀河
笠井敦子
春寒の足湯につかる小半刻
山本無蓋
道の駅婆も春菜も元気やで
石田きよし
をちこちの路地にまた出る冬の月
荒木 甫

寒麦集より

スコッチを寒九の水で割りにけり
村 卯
異状なき癌の数値や梅真白
宮崎根
初伊勢や白装束より御神酒受く
山口ひろよ
早春の渚只管歩きけり
佐々木秀子
鶯笛聞かせつ売りぬ紺木綿
宇都宮敦子
夫の乗る車椅子押す余寒かな
中下澄江
JAの大き春子を道の駅
田部井幸枝
非常階段かぞへて下りる寒の明け
天野正子
鯨棲む沖に大波小波かな
和田紀夫
大き袋満たすつもりの蓬摘み
高橋みつ

羽音抄

ぶらんこに揺らさず座る昼の月
成田美代
しやぼん玉一つひとつの変化球
石田きよし
微笑めと初蝶の来し忌日かな
平野みち代
春野へと連れだつてゆく声と影
遠山みち子
ジャンパーのポケット深く吾を抱く
荒本 甫
化身とも思ふ大亀鳴きにけり
来海雅子
竹林へ光の剌さる寒の入
宇都宮敦子
凝鮒何かと言へば周航歌
相良牧人
旗色のいよいよ悪しマスクとる
山口ひろよ
ゆるやかな春の雑踏人を待つ
田中涼平
早春の幹の匂ひを嗅ぐ麒麟
坂場章子
無造作を得意としたる春帽子
森 聖子
あしかびや縄文人の遊歩道
藤兼静子
湯婆のほのぼのたるを愛しけり
椿 和枝
耕人の声やはらかく戻りけり
海老根武夫
冴返る横目づかひの心電図
鈴本征四
まんさくや八一歌集を拾ひ読み
山本無蓋
葛飾に牛舎のいまも春の泥
森田尚宏
熱燗やテーマいつしか横取られ
藤沢秀水
十指みな声をもつ手話春めきて
村上すみ子


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