鴫

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平成23年3月号より
代表近詠
一旅
井上信子
遊ぶ子のこゑを遠くに三ヶ日
希ふこと少なくなりぬ睦月尽
父の忌の百たび炭火匂ふなり
何の木か育たぬ木なり風花す
日陰ことにことりとつぼむ白椿
冬雲の白にまみれて行く一羽
浜風の冬草に居て残る虫
砂浜に組む正月の珈琲店
初旅のこと戦跡に立ちしこと
寒涛の砲台跡をかがやかす
子と違ふ旅を終へたる冬深し
寒夜にてかさりかさりと万華鏡
当月集より

妻死後を余生と思ふ寒の入り
中江月鈴子
頭上より遠くが晴れて枇杷の花
山ア靖子
冬青空触るれば小波立つならむ
橋道子
三日月の陰の全円漱石忌
中村恭子
冬眠の泥鰌てのひら鳴きにけり
荒井和昭
舫はれてゐるやうに揺れ離れ鴨
風間史子
小雪や水に浮く箸沈む皿
田村園子
冬木の芽日蓮像に見下ろさる
小林正史
包装紙大きく広げ年詰まる
田令子
極月や轍に次の輪を重ね
加藤峰子
校庭のにぎやかな空冬立てり
倉持梨恵
冬の田にまだなりきれぬ風騒ぐ
前川明子
富有柿福助のごと正座せり
相良牧人
当りまえの出来る幸せ布団干す
田原陽子
重厚な桜もみぢの散り敷くは
数長藤代
改札を出ると参道石蕗の花
中山皓雪
ひた歩む枯葉散る径ひたあゆむ
折橋綾子
古暦うすく重たき朝なりき
木下もと子
無農薬柚子とみかんと跳ぬる風呂
椿 和枝
老兵のことしも挑む自然薯山
佐藤山人
雪嶺に日矢立ちてをり神さぶる
原田達夫
厨の灯届くところに葱ねかす
笠井敦子
黄落の上海蘇州いそぎ旅
山本無蓋
蹼を全開に鴨着水す
石田きよし
余命やてこつぺをようけ食うとけや
荒木 甫

寒麦集より

三門の礎石に冬の日のぬくみ
宮崎根
波音を子守歌とも枇杷の花
箕輪カオル
席立つにふり返る癖木の葉髪
甕 秀麿
雪吊の縄百本の律義かな
江澤弘子
木枯や昭和のまゝの佃煮屋
熊谷かをる
海望む文士の旧居石蕗の花
村 卯
渦より出買ふ襤褸市のランプかな
遠山みち子
小春日の足とめて見る手打そば
足立良雄
捨て印を押すに正座す霜の夜
平野みち代
冬天や魚のかたちの飛行船
坂場章子

羽音抄

水仙や水平線の重たかり
山本久江
マフラーの込み合つてゐる喉仏
相良牧人
木守柿思案の色となりにけり
石田きよし
荒星や子等には告げぬ夫のこと
笠井敦子
柿の木に柿やおまへのゐる空気
村 卯
焼藷を闇取引のやうに買ふ
原田達夫
コロッケの匂へる町も師走かな
濱上こういち
後出しのじやんけんのごと時雨来る
佐藤山人
凩やむき出しに持つ処方箋
坂場章子
桃色の仔豚抱かさる感謝祭
山口ひろよ
電飾のつづきに柚子の香りをり
成田美代
冬菜干す湾へ空母の来たりけり
海老根武夫
露座仏へ人肌色の冬日差
平野みち代
クリームの匂ひとぢこむ皮手套
来海雅子
ひともじと言ひ得て妙な細さかな
宮崎根
焚天守閣の深さを測る眼に
山本無蓋
夕まぐれ伴侶と植ゑし柚子を剪る
森 さち子
要塞の先はアフリカ冬鴎
猪爪皆子
冬草や子を久々にはげましぬ
佐藤サツ
冬蟹の納まりつかず大皿に
五十嵐紀子


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