鴫

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平成23年1月号より
代表近詠
菊の雨
井上信子
菊の雨勿来の関を来たりけり
わかされの左東京からすうり
吊橋は遠見するもの葛の風
葛がくれゆく透明な雨合羽
茸山一人は帽を失くしたる
野ぶだうの透明をただ呟きて
失ひし帽秋色の濃かりけり
一人一人はぐれず戻る芒かな
どの顔も寒露すぎたる旅の中
大利根を渡りきりたる秋櫻
晩菊や人の背を見て水を見て
関東の海べりに居り雁くるか
当月集より

冬の野のかがやく果ての日本海
中江月鈴子
雁や案じながらの宛名書き
山ア靖子
ただ広き新駅秋の海近み
橋道子
パンのみに生きる思ひや冬うらら
中村恭子
穭田の雫水輪の祭かな
荒井和昭
新松子聞こえるやうに呟けり
風間史子
波ゑがくやうに地を掃く秋思かな
田村園子
急ぐ水急がぬ水も澄みにけり
小林正史
十月や影に追はれてゐるやうな
田令子
自転車の速さに秋の雲動く
加藤峰子
空つぽの池へみんみん降りにけり
倉持梨恵
こほろぎの昼夜に不死を疑はず
前川明子
松葉杖取れしと電話青みかん
田原陽子
白朝顔種に母の忌近づきぬ
数長藤代
天高し青き合羽の観瀑船
中山皓雪
人追ひて掻き分けてゆく薄原
折橋綾子
ふるさとのシャッター通り秋の風
木下もと子
秋薔薇背高くなつてしまひけり
椿 和枝
それぞれに秘匿の穴場きのこ狩
佐藤山人
色変へぬ松切岩は大谷石
原田達夫
蛇穴に入りて気付きぬ不整脈
笠井敦子
菊日和岬の鼻の磨崖佛
山本無蓋
腕時計外し秋思の枷を解く
石田きよし
ひつぢ田の青みにゴッホの黄が欲しや
荒木 甫
木の実落つ音にことばを拾ひけり
相良牧人

寒麦集より

渡る橋秋には秋の長さかな
濱上こういち
倒木を底に眠らせ水澄めり
三木千代
蓑虫の晴着を伝ふ雨しづく
猪爪皆子
血管のやうな路線図秋じめり
坂場章子
母恋へば八雲立つかに彼岸花
来海雅子
頂上の小さな祠草の花
成田美代
木の実踏む先端技術研究所
村高 卯
子守唄一章で足る良夜かな
江澤弘子
飯盒の吊るさる茶房初紅葉
藤沢秀永
気短かも気長もゐたり鉦叩
甕 秀麿

羽音抄

十三夜葉書に文字を重いほど
数長藤代
鵙の贄へその緒ほどに乾びをり
宇都宮敦子
満場爽やげり独りのソプラノに
村上すみ子
蓑虫の糸電話なら通じさう
相良牧人
回遊魚めき椋鳥の乱高下
坂場章子
秋天の青奪ひけり山上湖
甕 秀麿
八ツ頭どの子も自立出来さうな
遠山みち子
たらちねの母は坐りて栗を剥く
荒木 甫
台風一過煎餅を威勢よく
田令子
刺し鯖やゆふぐれ運ぶ川の音
海老根武夫
しなやかな殺気や芒騒ぐとき
前川明子
箸置は魚のかたち栗ごはん
箕輪カオル
雁やエプロン似合ふ女優逝く
澤田美佐子
コンパクト開くやどつと秋深む
青山正生
田圃より畑へと案山子転勤す
佐藤山人
遊興のピアノ秋思のバイオリン
石田きよし
大吉と黙して示す鵙日和
藤沢秀永
幻想の構図の中の白い萩
藤兼静子
戦中の男丸刈り栗ごはん
足立良雄
気象士のおつしやる後の更衣
久米なるを


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