代表近詠
風とゐる
加藤峰子
芙蓉落つひと日を皺に包みては
新涼や私信のやうな朝の夢
汐入りの川面を打ちて鰡飛べり
法師蟬洗ひ晒しの森を統ぶ
かたつむり落つ突然の反抗期
向日葵の咲き疲れたる花の芯
鬼やんま獣のやうにぶつかり来
オカリナの素風に晒すわらべ唄
天路より夫を迎ふる苧殻の火
稿終へて今宵青葉の風とゐる
名誉代表近詠
住み古る
橋道子
風抜くる住み古るといふ爽けさに
新涼や誰にも貸さぬ裁鋏
ししたうがらし煮付けて妙に褒められて
ときどきは駄々つ子となる生身魂
夜長の入口朗読の「夢十夜」
駅前のかくれ稲荷の秋澄めり
ねこじやらし竹馬の友は女にも
当月集より
寒麦集より
羽音抄