代表近詠
伊八の海
加藤峰子
菜の花にそまる伊八の海たひら
まう一周歩く白蓮さびぬ間に
春は曙表情筋のストレッチ
そよそよと火焔ほぐるるチューリップ
春大根おろす会話をするやうに
若蘆の音のさりさり伸びにけり
花ふぶき遊び足らざる駄々の声
首横の譲らぬ自我よゴム風船
傾ぎては鰭の直進水草生ふ
萵苣ちぎる竿屋口上響きくる
名誉代表近詠
「いや」
橋道子
パン粥を吹いて八十八夜
降りぐせの空をうらまず薔薇真紅
とりわけてピアスの似合ふ更衣
すぐ「いや」と言ふ子の連射水鉄砲
午睡ともちがふ麻酔の真空時
新樹光痛みを数で示せとは
病棟の静寂をかすめ夏うぐひす
当月集より
寒麦集より
羽音抄