鴫

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令和2年6号より
代表近詠
モーゼの杖
橋道子
ほどけつつ水辺を灯す初桜
漣に散れば春光尖りけり
はくれんの光絹とも陶磁とも
一灯の照らすふらここ恋名残
スカイプに幼子吹けりしやぼん玉
反省をせぬを反省春の雪
子規描きし都忘れをわすられず
北窓を開き蟄居となりにけり
春満月病むこの星を高照らす
海割りしモーゼの杖を欲る三月
当月集より

幼らとグーパー運動山笑ふ
山ア靖子
手量りの動きに香る春キャベツ
荒井和昭
脚注にルーペを頼る春の風邪
田村園子
桜咲く五十年目の埋立地
田令子
さへづりはヒマラヤ杉の裂け目より
加藤峰子
床の間に淡き影引く吊し雛
相良牧人
木道のひりひり軋む薄氷
荒木 甫
掛け声なき弓取り式や春かなし
石田きよし
稜線の淡く透けゆく芽吹かな
成田美代
ひそひそがやがて哄笑春セーター
山口ひろよ
夫の忌に句集上梓や初桜
中山皓雪
囀や村に中世城の道
箕輪カオル
春愁をほぐすに摘む甘納豆
平野みち代
桟橋の動かぬ巨船二月尽
甕 秀麿
三月の富士碧空を雪けむり
宇都宮敦子
浅草の新人車夫や花三分
山本無蓋
あたたかや誘導員のスクワット
坂場章子
手洗ひを行者の如く春寒し
和田紀夫
鼓草ほどよく隔ち釣り師座す
鎌田光恵
集ふこと禁じられたり花便り
田原陽子
啓蟄の郵便局へ試歩のばす
数長藤代
岩鼻を打つ春の波鳥居まで
原田達夫
春愁ひエンディングノート前にして
笠井敦子
うららかや庭の安全カラー増ゆ
田部井幸枝

寒麦集より

ふんはりと矜恃そこねず落椿
宮ア根
いつの間にか向き合ひてをり内裏雛
西嶋久美子
春愁のとはずがたりの写経かな
足立良雄
霾やユーモレスクの聞ゆ路地
西村将昭
春宵の女手相見高瀬川
松林依子
番傘の屋号庄助春の雨
中島芳郎
ほつとさせやがて嬉しき初燕
立花光夫
胎動を聞かせて貰ふ春の縁
三木千代
麦踏みの決め手は軽く後ろ手に
森 しげる
旬にだけ出回る愚直ほたるいか
島田喜郎

羽音抄

水皺の無限のみこむ春の鯉
加藤峰子
雲雀東風水面のきらら草のきら
山口ひろよ
いつまでも生きるつもりの雛しまふ
石田きよし
三椏の小さきげんこつ最初はグー
松林依子
不明者の残る海越え鳥帰る
安井和恵
蘇る地震の記憶や春満月
和田紀夫
雲にもの申して落下雲雀かな
中山皓雪
蒼天へちからづくなり濃紅梅
来海雅子
あとさきに流るる番春の鴨
藤沢秀永
棚に銃マタギの家の土雛
甕 秀麿
夕桜不急の用に歩を速め
成田美代
牡丹雪笹を洗うて元どほり
鎌田光恵
囀りにそば湯の後も居座りぬ
佐藤宏樹
松の花鉄を編みたるスカイツリー
山本久江
玉留に足らざる糸や鳥曇
五十嵐紀子
左右して異なる手相二輪草
宮ア根
鶯や啼くを惜しみて蜜つつく
橋信一
春はあけぼのマスク求める長い列
渥美一志
花の下心病みしか漢ひとり
中下澄江
葉書とはことばの小舟花筏
松平知代


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